2015年07月31日

生きているこの夜

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  くらいなかの火のはじまり    岬多可子


  襖の向こうの 夜の声は
  聞かなかったことにしてね。
  ことが おきていたとしても
  なにも おきてはいないから
  花の こちら側の お茶で
  ゆっくりと あまく あたためてね。
  獣なのだから わたしたち それを
  口で じかに 飲んでもいい。
  もう暗くて もっと暗くなる
  だから わからないけれど
  緑の苔の廊下を 往き来するものは
  見なかったことにしてね。
  生きているこの夜
  ほんとうは あつくてならないから
  見えないなかで 触れてしまったら
  それが何であれ とことん
  ゆけるところまで ゆくのよ。
  罪なら罪 罰なら罰 どちらでもいい。
  金箔 銀泥 遠い落雷
  向こう側の わたしたちも 撃たれる。


             掌詩集「水と火と」より全行 




posted by cocoacat at 00:07| 日記 | 更新情報をチェックする