2014年09月09日

月の輝く夜は

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  いつか別れる日のために     堀江沙オリ

  言葉に出さず 激しさも無く 
  ベッド下の迷宮を数センチ移動して
  きみは 嫌 を緩やかな身体で主張する
  人間の罪悪感と腕の長さを学習しながら

  やっと抱き上げた身体の 軽さに手は戸惑い
  私の感情は 悲しみに追いつかない
  半年前の 腕の中の重さの記憶が消える
  ケージの金具を引っ掻く事も無く
  収まるのにやっとだった場所に
  沢山の余白を残して
  きみは耳を伏せ じっと耐えている

  診察台にうずくまる
  数字が正確に軽さを表示する
  診察台の上の広大な余白
  日ごと増える余白の面積で
  きみが 余白だけになる
  その日の茶の間に早く慣れておいてと
  きみは伝えているのだろうか

  人は自分の悲しみに向き合うのを怖がり
  傍らの小さな呼吸を永遠に欲しがる
  仕様も無い生き物だから
  非科学的な永遠を 最新の科学に頼って
  嫌がるきみを 嫌な場所に連れて行く
  一番大切なものを 意志的に忘れて

  神は先に 空と水と地の生き物を造った
  人を最後まで造らなかったのは
  最も神の摂理に従わない
  どうしようもない生き物だから
  迷い躇ったのだ 

  人よりずっと神に従順なきみは
  残り僅かな苦行の場から
  見知って来た世界に帰り着き
  窓の前にまっすぐに座っている

  自分が余白になった後の羽音や葉擦れ
  風の色や雲の声を
  耳と尻尾を立てて じっと見渡し
  遠くない
  そのときの練習をしている

   
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posted by cocoacat at 23:23| 日記 | 更新情報をチェックする