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鋼の朽ちていくとき 岬 多可子
荒れた納屋から 暗い鋼の刃。
百合の花粉のような烈しい銹が
厚く被い 罅割れて
しぜんと零れてくる。
その刃物が ほかの什器といっしょに
枯草の上に並べられていくのを 見たとき、
斃れたひとのこと その手足の
銹 罅 のことを思ったのでした。
掌は天を受け 蹠は地を受け、
熱く汚れた脂の泥を拭ったでしょう
火の蛇の通った途も辿ったでしょう。
世界というもの 時間というものに
触れ続け 接し続け、
内側から厚みと硬さを育てて。
背負われたり 抱かれたり 寝かされたりして、
まだ なにひとつ なににも触れぬ
柔く白い さいしょの頃にも きっと、
ふいに 光のような力は 閃き。
身から出る とは言うのでしたが、
でも 銹も罅も朽ちる うつくしさでした。
掌詩集 木 金 土 より全行