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土で描かれたのを視る 岬 多可子
粘る赤い土の 流れる緑の砂の
描かれ開かれた風景が
窓のように 絵。
動かないけれども
それでも 視ているのは 動き。
あえかな草の葉の そよぎが おののきが
ときには たたかいに 似て
遠い巨きな海の渦からおよんだものではないか、
指の跡の窪みの湿りが
やがて地を裂き 深くから
濁った体液が 噴き出すのではないか。
作ってしまった こわせないものが
どうしようもなくくずれていくのを
手で触れることもできず
ちりちりと端からちいさな火に灼かれていく
その動けない動きを 視ているほかないのではないか。
ことばを こころと 短絡し
ともあれ横たわろうとする 体躯を、
起たせて。熱い泥 冷たい泥で描かれて
窓のように開かれた絵に ただ 目を遣る
掌詩集 木 金 土 より全行