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銅葺きの屋根はしずまり 岬 多可子
すっかり緑青へと落ち着き、家の者たちの
あたまかずも くちかずも 少ない。
炉の火も 井の水も とろとろと
衰えていくことを かなしまず、
よい季節の 晴天に
のこすものを ひとつずつ 選んでいく。
蔓草の模様が刻された 布切り鋏、
長い嘴で切る 鳥の 糸切り鋏。
尖り方の異なる 幾種類かの針、
指に添い 捩れて けれど光を宿してある。
大叔母さんがくださった
ぶどうの浮き彫りのついた 楕円形の缶、
ジャムやチョコレートのビスケットが入っていた。
そこに 花文字刺繍の針山や
千枚通しといっしょに おさめる。
氷を掻く青緑色の歯車と
革のベルトが軋む足踏みミシン。
不用意に 金属同士の触れ合ってさえ
簡素に鳴れ、
深く澄みひろがっている空の日
掌詩集「木 金 土」より全行