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残るものは木々と 岬 多可子
潰されたむらさき色の爪が剝がれ落ち、
恋の あえかな燠の衰え
ビーカーの底の珈琲の澱、
量れない そのような 時間の流域。
廃庭に長く居ついたのは
《首輪と瞳は青い 尻尾はまるい》
そんな迷い猫。
街の角々の貼り紙は
いくどもの大きなあめかぜに
とうに溶け 流され、猫も。
えにしの途絶え閉ざされた 扉や窓は
夏を盛る まみどりの木々、その
指や舌が こじあける。
棘の枝の棘 乱れ 交じり
奥まった 蛇も到らないそこへ
蒸籠のような巣は懸けられ、
残るのは しっとりと汚れた羽毛
あとは空。そして
光を濃縮し膨らんでいく果実。
もうじき秋、酸を散らすような。
掌詩集「木 金 土」より全行