2020年06月30日

木の蜜に封じられ   

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  木の蜜に封じられ           岬 多可子 

  廻り階段の柱の一本になってからも
  いつまでも樹液をにじませる木、
  木は 樹であったことを ずっと忘れずにいて
  乾かない傷口から 生が染み出ていた。
  ちいさい頃、その柱に
  抱きつくみたいにして
  濃い飴色の 濃いべたべたに 触ってみた。
  虫たちの夏だと思っていたけれど、
  そっと舐めてみた指は
  渋く 苦く 甘く 舌を刺し、
  そんな 記憶も
  重く厚い鍋のなかで かきまぜられた
  夢の 黒々としたジャム。
  蜜に溺れた蟻が その夢に封じられ
  千 万 億年の後 掘り出される。
  触角のうつくしい悶え
  細く絞られた胴体の震えも
  とろりとした金色のなかに凝固し、今は
  薫る石 燃える石、
  胸元を飾る琥珀。
                      掌詩集「木  金 土」より全行
posted by cocoacat at 00:43| 日記 | 更新情報をチェックする