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木の蜜に封じられ 岬 多可子
廻り階段の柱の一本になってからも
いつまでも樹液をにじませる木、
木は 樹であったことを ずっと忘れずにいて
乾かない傷口から 生が染み出ていた。
ちいさい頃、その柱に
抱きつくみたいにして
濃い飴色の 濃いべたべたに 触ってみた。
虫たちの夏だと思っていたけれど、
そっと舐めてみた指は
渋く 苦く 甘く 舌を刺し、
そんな 記憶も
重く厚い鍋のなかで かきまぜられた
夢の 黒々としたジャム。
蜜に溺れた蟻が その夢に封じられ
千 万 億年の後 掘り出される。
触角のうつくしい悶え
細く絞られた胴体の震えも
とろりとした金色のなかに凝固し、今は
薫る石 燃える石、
胸元を飾る琥珀。
掌詩集「木 金 土」より全行