てのひらのひらひらと火 岬多可子
ちいさな両棲類の 濡れて息する水の膚。
載せて 包んだ そのなかで
火の傷を負わせる、それが
わたしたちの てのひら。
あるいは びっしりと満場の
泡立ち波打つ てのひら、
ひとひら ひとひら 姫手鏡の光だったのが
もえひろがっていく 火の手の 赤い海。
ひらかれ ひらひら ひるがえり
花 落ちて 幾重にも散り敷くように
手には手が 炎には炎が
かさなり つながり ついには一面の。
そして 蜜 蝋 脂、
つらつらならならと
白いこごりを熔かすのが
上衣の裾から入れて 身の肉 肉の内に触れる
てのひらの火。
とりかえしのつかぬ あのこと あのこと、
にぎりしめ にぎりつぶしてきて 赤い
熱い手。
掌詩集「水と火と」より全行