あかるい水になるように 岬多可子
灯りのともる室内から
夜のみっしりと重い庭を
見よう見ようとしなければ、そして
見よう見ようとしても、でも。
あかるいところから くらいところは見えない、
そこで 草や石や幼いもの、
知られずに 泣いているのかもしれないでしょう。
夜を盗む指のような虫、
葉よりも花 花よりも実を
どうしたって 食い荒らしたいのが
わたしだったのかもしれないでしょう、
どうしたって あまくてやわらかいほうへ ほうへ
身をよじりながら這っていって。
黒く濡れた庭から 灯りのともる室内は
とてもあかるく とてもとおく思われました。
その底近く 痛んでいるものたちは
それぞれに 自分の傷を痛んでいる。
あ、結ばれた草の傷から垂れるひとしずく、
いつかずっと先 そっとひらかれるあたりで
あかるい水になるように。
掌詩集「水と火と」より全行